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秋田地方裁判所 昭和43年(行ウ)29号 判決

原告 宮本正雄

右訴訟代理人弁護士 谷口欣一

同 野口三郎

同 高津戸成美

同 真木吉夫

被告 秋田市長

荻原麟次郎

右訴訟代理人弁護士 古沢斐

同 伊藤彦造

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和四三年七月二六日付監発第二六七号をもってなした別紙目録記載の建物に対する行政代執行令書発付行為を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

≪以下事実省略≫

理由

一  原告が、昭和三八年五月一〇日、被告から秋田市営八橋総合運動公園内に公園施設として無料休憩所、売店およびきん舎を設置することについて、期間同日から三年間、使用料一か年六、〇〇〇円の定めで許可を受け、本件建物を建築したこと、原告が昭和四一年五月一〇日右許可期間満了の際その更新を申請し、許可期間を二年と改訂して右許可の更新を受けたこと、昭和四三年五月九日右更新後の許可期間が満了したが、その後も原告は本件建物を任意撤去しないこと、被告は、原告に対し、右許可期間満了に先立ち、昭和四二年一一月八日付の書面で右期間満了と同時に本件建物を撤去すべき旨通告し、更に、右許可期間満了後の昭和四三年七月一一日付で、本件建物につき、暖房付県営体育館建築工事に支障を来たすので、都市公園法一〇条に基づき、同月二五日までに撤去して原状に復すること、もし右期限までに履行されないときは行政代執行法により代執行を行う旨戒告し、同月二六日付監発第二六七号代執行令書をもって同月三〇日に行政代執行する旨通知したことについては、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、原告の原状回復義務の有無について判断する。

1  本件設置許可の更新後の許可期間が昭和四三年五月九日満了したことは、前記のとおり当事者間に争いがない。

2  原告訴訟代理人は、右許可期間は当然に更新されたと主張するので、この点につき検討する。

本件設置許可は、都市公園法五条二項、秋田市都市公園条例(昭和三九年七月一〇日条例第三五号。以下「新条例」という。)により廃止される以前の秋田市公園条例(昭和二八年四月一日条例第一六号。以下「旧条例」という。)一六条、秋田市都市公園条例施行規則(昭和四〇年三月二五日規則第五号。以下「新規則」という。)により廃止される以前の秋田市公園管理規則(昭和二八年八月一一日規則第二〇号。以下「旧規則」という。)三条に基づいてなされたものであるが、その後、新条例および新規則が制定され、旧条例および旧規則が廃止された際、新条例附則三項および新規則附則三項により、旧条例および旧規則によってした許可は新条例および新規則によってしたものとみなされてその効力を存続し、前記設置許可期間満了の昭和四一年五月一〇日前記のとおりさらに二年間更新されたものである。ところで、本件設置許可の根拠法規である前記都市公園法等によれば、都市公園に公園管理者以外の者が公園施設を設けようとするときは、所定の様式の申請書を公園管理者に提出してその許可を受けなければならないものとされ(同法五条二項、旧条例一六条、旧規則三条一項、新条例六条、新規則二条)、また、右許可期間は一〇年をこえることができず、これを更新する場合も同様であるとされている(同法五条三項)が、右の申請書の提出およびこれに対する許可という手続を経ないでも自動的に更新されることを認めた規定は存在せず、かつ、地方自治法二三八条の四は、一般的に、普通地方公共団体の所有に属する行政財産につき、私権の設定を禁じ、ただその用途または目的を妨げない限度においてその使用を許可できるものとし、右使用許可に基づく行政財産の使用については借地法および借家法の規定の適用を排除している。

したがって、これらの規定に照らし考えれば、当初設置許可を求める場合にはもちろん、いったん右許可を得たのち許可期間の満了に伴いその更新を欲する場合にも、公園管理者に対し所定の申請書を提出して許可ないしその更新を申請すべきであって、右の更新申請をしなくとも法律上当然に右許可が更新されると解することはできない。そして、本件において、昭和四三年五月九日の許可期間満了に際し、原告が所定の更新申請をしたことについては、なんら主張立証がないから、原告の本件設置許可は当然に更新されたとの主張は、この点においてすでに失当であって採用できない。

なお、原告は、公園施設設置許可については、これを許可するか否かは公園管理者の自由裁量に属するが、いったんこれを許可した以上は、許可期間満了に際し、原則として更新すべき義務を負う旨主張するので、一言付言する。都市公園法五条二項に基づく公園施設の設置許可は講学上にいわゆる公物使用権の特許の性質を有し、許可するかどうかは公園管理者の自由裁量に属するものと解すべきであるが、許可期間満了の際にこれを更新するか否かの判断がなお公園管理者の自由裁量に委ねられると解すべきか否かは問題の存するところである。すなわち、売店・休憩所等の公園施設は本来都市公園の効用を全うするために設けられるものである(都市公園法二条二項参照)が、これを設置することについて同法五条二項の許可を受け、売店等を設け、営業を営む者がそこに財産的利益を取得することは否定しえないから、その者が更新を欲するときは、都市公園の管理上あるいは公益上の必要がある場合その他相当な理由のないかぎり、公園管理者において、右の許可を更新すべき義務を負い、相当な理由がないのに更新を拒否するときは、裁量権の逸脱ないし濫用として更新拒否処分が違法性を帯びるものと解しうる余地があるからである。そして、かかる見地に立って考えれば、許可期間はその実質において使用料その他許可条件改訂のための期間とみることもできないではない。しかし、仮に右の見解をとるにしても、それは所定の更新申請がなされたことを前提とし、これに対し拒否処分がなされた場合にはじめて問題となることであって、本件のように更新申請が存在しない場合には、その拒否処分ということもありえないから、その適否を論ずる余地はない。したがって、原告の右主張も採用に価しない。

3  原告訴訟代理人は、被告の本件原状回復請求は、実質的に都市公園法一一条二項一号に基づくものというべきであるから、同法一二条に基づく損失補償についての協議手続を経ることを要する旨主張するが、被告の本件原状回復請求が同法一〇条一項に基づくものであることは前記のとおりであるから、同法一二条は適用の余地がなく、原告主張のような損失補償の協議の手続を要するものではない。

4  原告訴訟代理人は、本件建物を撤去して原状回復することは都市公園法一〇条一項但書所定の原状回復が不適当な場合に該当する旨主張するので、検討すると、≪証拠省略≫によれば、前記行政代執行のための費用として合計三〇一、〇〇〇円(解体資材等の保管料も含む。)、工事所要日数として二日間を要するとの見積りがなされていることが認められ、これによれば、本件建物は容易に撤去できるものということができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。従って、本件建物を撤去して原状に回復することは、都市公園法一〇条一項但書にいう原状回復が不適当な場合には該当しないものといわなければならない。

5  よって、原告は、本件建物を撤去して原状に回復すべき義務がある。

三  そこで、つぎに、本件代執行令書の発付が代執行権の濫用に当たるか否かについて判断する。

まず、本件建物が原状回復に不適当なものと認められないことは、前記のとおりであるところ、≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。すなわち、本件建物敷地部分および県営体育館敷地部分を含む秋田市営八橋運動公園は、昭和二九年七月五日建設省告示第一、二二六号をもって都市計画決定を得て以来、早晩事業決定を得て公園整備事業が実施される予定であったので、被告は、原告に対する昭和三八年五月一〇日付本件設置許可に当っても、右事業決定による公園整備事業に支障を来たすことのないように、許可期間を暫定的に三年間という短期間にかぎり、かつ、増改築禁止の許可条件を付し、更に、昭和四一年五月一〇日の更新の際には、右同様の理由により許可期間を二年に短縮し、また、本件建物建築についての秋田県知事の旧都市計画法一一条ノ二に基づく昭和三八年六月二六日付許可には、「今後第二号八橋運動公園区域事業施行上支障ありと認めるときは、撤去またはその他の措置を命ずることがある。この処分により生ずる費用は許可受人の負担とする。」との許可条件が付されていたところ、昭和四一年末頃暖房付県営体育館建設が決定され、昭和四二年度秋田県予算においてその予算措置が講ぜられ、昭和四三年一月からその敷地買収も開始されるに至り、右体育館建設と共にその周辺の整備計画の実施上、本件建物を撤去する必要が生じた。それで、被告は原告に対し、更新後の許可期間満了の六か月前である昭和四二年一一月八日に書面をもって期間満了と同時に本件建物を撤去すべき旨通告し、更に、昭和四三年三月二七日および同年五月九日付各書面で重ねて本件建物の撤去を請求したが、これに対し、原告は、前記許可期間満了までに適式の許可(更新)申請の手続をとるなどの手続を何ら取らなかった。また、原告は、前記許可期間の更新前、無断増築、販売品目外の酒類販売等により、被告から再三原状回復命令あるいは警告等を受け、更新後も酒類の販売をくり返すなど、その使用の態度が公園内の施設管理上必ずしも好ましいとはいえなかった。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上のとおり、本件建物の撤去が容易であり、かつ、公園整備計画の実施のためという公益上の必要性があることおよび原告の使用態度を総合的に考察すれば、本件代執行令書の発付が代執行権の濫用であると認めることはできない。

四  そうすると、本件代執行令書発付行為は適法であるから、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原昭雄 裁判官 石井健吾 多田元)

〈以下省略〉

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